生理学的観点から


最後に、痛みについて、生理学的にご説明いたします。

先ず理解していただきたいことは、痛みというのは、圧力が一定以上加えられた時に感じるものだということです。

例えば、指先で軽く皮膚を触ると、くすぐったく感じますが、徐々に強く押していくと、それが痛みに変わっていきます。

 

つまり、痛みの感覚は、圧力の強さによって、くすぐったい→心地よい→重さを感じる→

痛いなどと、変化していくのです。

 

触られている感覚が、痛みと感じ始める時の最低の圧力を、「痛みの閾値(いきち)」と言います。

例えば、平手で軽く叩く(小さな圧力)と痛くはありませんが、強く叩く(大きな圧力)と、痛みを感じます。

 

温度の感覚でも同様に、お風呂に入り、心地よさを超えて、熱さを痛みに感じ始める時、これを熱さの「閾値」と言います。

 

このように、感覚にはどのような種類であろうとも、感じ始める最低の限界値(閾値)が、個人差はありますが、存在しています。

 

鍼もまた、先端の圧力の強さが、一定以上になった時に、痛みと感じるのです。

 

しかし、感覚にはすべてにおいて、感じることのできる限界というものがあり強すぎる刺激や、逆に小さすぎる刺激は感じることができなくなるのです。

 

さて、鍼の痛みの「閾値」について、更にご説明いたしましょう。

① 針の先端の太さ

② 刺激に要する時間(一瞬感で皮膚を通り抜けたり、筋肉の中でゆっくり動かす時間)。

③ 刺激の変化(刺入したまま動かさずにとどめたり、刺入した鍼を、筋肉などのこりを取るために小刻みに回転や上下させたりする)。

この3つの掛け合わせたもの、「①×②×③」が刺激量です。

この刺激量が一定「閾値」を超えると、痛みと感じることになります。

 

 治療には刺激感は必ず必要なものです。

しかし、出来るだけ痛み感覚でないレベルまで、最小にすることが有効な治療効果を得るためには、必須条件ということができるでしょう。

しかし、細くすれば良いのかといえば、それも効果的でなくなってしまいます。

先端を人の感覚で捉えられない程度に、細くしすぎたとすれば、有効な治療効果も得られ無くなってしまいます。

そこで、有効な治療効果も得られて、その刺激をなるべく小さく抑えた鍼(1ミクロン程度)の鍼が必要になってきます。

その鍼を丁寧に操作することにより、より良い効果を売ることが出来るのです。

つまり、「①×②×③=」の内、①が極めて小さく、③もゆっくり丁寧であれば、②が長い時間でも刺激量は小さくなり、痛みも抑えられることになります。

 

先ほど、鍼の先端の太さがわずかでも違えば、治療効果に影響があると申し上げましたが、たとえば、①の直径が 1ミクロン違ったとしても、良質の鍼は1ミクロン以下ですので、鍼の刺激量は単純に計算しても先端の面積に比例することになりますから、1ミクロンが2ミクロンになると、その圧力を及ぼす面積は、4倍になってしまいます。

個人差を考慮したとしても、僅かな差といえども、大きな影響を出すことはお分かりのことと思います。

 

③の刺激の変化についてご説明いたします。

どなたも、棘などが刺さった時に、ご経験されたことではないかと思いますが、刺さった直後は棘の痛みがあったのに、触らずにそっとしておくと、痛みを感じなくなります。

これは、刺激の変化が「0」になった為に、かけ算すると「①×②×③=」のうちの③が「0」ですから、痛みも無いと言うことになります。

 

 

しかし、再びその棘を指先で、触ったとたんに、痛みを感じるのは、③の刺激に変化が起こったと言うことになり、「①×②×③=」の内の③が、大きくなったために、再度痛みを感じてしまったと言うことです。