神経麻痺・鈍磨の臨床例

 

神経麻痺には様々な原因が考えられますが、ここでは脳梗塞の後遺症・神経圧迫・突発性(原因がはっきりとしない麻痺)・薬物による神経麻痺などについて書きます。

神経麻痺の治療の効果は、原因のいかんにかかわらず、麻痺してからの時間の長さに大きく左右されますので、一刻も早く西洋医学的な検査を受けて下さい。

その後、西洋医学での処置もしくは東洋医学の治療が適しているか否かを確認のうえ、

優先順位を決めて対処いたしましょう。

これを誤ると、無駄に時間が過ぎてしまい、治癒可能な病気や症状を、治癒困難にしてしまうことに

なりかねません。

また安易に「そのうち治るだろう」などと考えて、何もせずにほっておくと、全く動かす事が出来なくなってしまう可能性がございます。

 

 

顔面神経麻痺

 

症状

顔面神経麻痺により、顔面が麻痺すると、左右いずれか片側の「額のしわ寄せ」「まぶたの閉じ」ができなくなり、「イーッ」とか「ウーッ」とか発声する時に、唇を含む口元が、片方に引っ張られて、歪んでしまいます。

また、ホッペタを膨らませようとすると、空気がもれ、膨らますことができなくなります。

更に表情筋だけでなく、顔面神経には、自律神経の分泌作用も含まれ、また聴覚に関する神経も伴っていますので、涙の出が悪くなったり、聴覚過敏になったり、味覚低下・唾液分泌低下などの症状も起こす事があります。

 

 

◆ Hさん 男性 (60歳) 

 

心筋梗塞を患い克服した後、今度は脳梗塞を発症し、某名門大学病院で治療する。

権威の担当医に「顔面神経麻痺は、西洋医学では難しいので、鍼かマッサージをなさったほうが良いでしょう」とアドバイスされ、来院されました。

 

脳梗塞への対応が良かったために、顔面神経麻痺以外の麻痺症状には、全く異常はございませんでした。

 

脳梗塞に罹患してからの時間も短時間であったために、治療は思った以上に効果が現れ、1週間に2回のペースで治療を行い、2週間合計4回の治療で終了いたしました。

 

通常ならば、異常が認められない場合でも、もう少し経過を確認するために、間隔を1週間から2週間と広げながら、様子を見た上で、治療は終了いたしますが、2回目の治療の際、治療終了前に「胃の具合も少し悪いので、診てほしい」とのご依頼がございましたので、少し診察後「次回詳しく」と、お約束の上2回目を終了いたしました。

 

3回目に来院された時には、顔面神経麻痺の方は殆ど治癒しており、麻痺の治療後、前回お約束のとおりに、胃の症状について、詳しくお話を伺い診察いたしました。

「2年半前に、左第5~第8肋間の帯状疱疹に罹患して、近くの内科にかかっていますが、胃の辺りが変なので、診てもらったところ、帯状疱疹の後遺症でしょうと言われた」との事でした。

 

かなり痩せておられましたので、それについても伺ったところ、「心筋梗塞の治療のためにダイエットもしており、上手く痩せることができた」とのお話でした。

 

しかし、みぞおちに、ピンポン玉程度の大きさの腫瘤が触診されましたので、その結果をお伝えして、緊急に精密検査をされるようにお勧めいたしました。

その後、4回目の来院時には、顔面神経麻痺は完治いたしておりましたが、末期の胃がんで緊急入院されました。

そして、残念ながら、3ヵ月後に「亡くなられた」との、報告がございました。

 

 

ウィルス感染による顔面神経麻痺

 

◆ Mさん 男性 (65歳) 

 

風邪をひき、その直後に顔が歪んだために、近くの総合病院を受診し、「ウィルスによる顔面神経麻痺で、治癒には半年覚悟しなさい」と診断されたとの事でした。

 

以前、私の治療院で、別の症状で鍼治療の経験のございましたこの患者さんは、鍼の効果について、よくご存じでしたので、その総合病院で、鍼の低周波電気治療を1週間毎日受けられました。

しかし、全く変化がなかったために、当院へ再度来院されました。

治療は1週間に2回、これも罹患後1週間という短い期間でしたので、2週間合計4回の治療で、歪みは取れて正常になりました。

病院の診断の予想に反して、あまりにも早い効果の現れに、担当医が驚いておられたとの事でした。

その後、1週間に1回の治療を2週繰り返し、顔面神経麻痺の治療は終えましたが、その後は健康管理のご要望がございましたので、鍼治療は引き続き行いました。

 

 

◆ Hさん 女性(45歳)  

 

1年半前に右側の顔面神経麻痺になり、病院その他で、治療を受けたのですが、殆ど効果が無かったので諦めていました。

しかし、知り合いに治るかもしれないよと紹介されましたので、藁をも掴む思いで来院されました。

耳の聞こえは正常でしたが、それ以外の症状は、上記致しました顔面神経麻痺の症状の説明と同様な状況でございました。

 

3ヶ月ほどで、やっと少しずつ変化し始めました。

額にしわを寄せたりする動作に変化が現れて、まぶたや頬も僅かながら動き始めました。

しかし、罹患してから長期になっているために、筋力の衰えが酷く、回復のペースは僅かずつで、まぶたも完全に閉じる所まではいきませんでした。

 

1年になり動きははっきりと確認できる状態にはなりましたが、額のしわを作らせても半分程度、頬をふくらますと、一瞬間耐えられるものの、空気が漏れてしまい、完全に頬をふくらますまでには回復できませんでした。

 

動かさずにじっとしていると、「ちょっとおかしいかな」という程度に回復してきたものの、会話をするために表情を作ったり話したりすると、完全な麻痺の時とは違うものの、明らかに左右差が出て相手にちょっと変ではないかと悟られてしまう状況で、その後3ヶ月が経過するものの、それ以上の変化が認められず、治療を終えることになりました。

 

 

◆ Yさん 男性 (65歳) 

 

半年前、脳出血で倒れ入院し、その後、半年間リハビリを続けられましたが、人の手を借りずには、単独歩行は出来ない状態でございましたので、担当医に「これ以上は難しい」との宣告を受けて、退院され当院に来院されました。

 

左側は正常でしたが、右側に麻痺や鈍麻の症状が認められました。

 

右手は、握ったまま開くことが出来ずに、左背中から腰にかけての筋肉も全体的にかなりな筋力低下が認められました。

右臀部から下肢にかけては、殆ど筋力がなく、引きずる状態で、すねの筋肉に完全麻痺がございました。

 

初めての治療後、人の手を借りずに、治療室から待合室まで、壁を伝い歩きして7~8mを1人で歩き、待合室に突然現れたのには、待っておられた付き添いの方が、非常に驚いておられました。

 

「初回の治療から、こんなにも変化するのだから、きっと良くなる」と、非常に希望を持たれました。

 

ここでは説明が長くなりますので、詳細は省きますが、この様な現象は時折見られる現象で、特別な事ではございません。

 

さて、3ヶ月後は付き添いなしで、ゆっくりではございますが、単独歩行で近距離の散歩が可能になりました。

 

半年で、左すねの筋肉の麻痺以外は、正常になり、左足首に装具を付けての歩行も普通の人の速度と全く同程度の歩行が可能にまで回復し、治療を終えました。すね

 

 

サリン中毒による運動神経麻痺

 

◆ Aさん 男性 (36歳) 

 

1995年に引き起こされたあの忌まわしいサリン中毒事件に、その当時通院中の患者Aさんが巻き込まれてしまいました。

その当時Aさんは次のように話されておられました。

 

「私が霞ヶ関の1つ手前の駅で乗車すると、苦しそうに喘いでいる人や咳き込んでいる人などで、車内は異様な状況でした。

そして、私の座った左斜め前に、何か液体がこぼれていました。

なにやら嫌な予感に次の霞が駅で急いで降りると、ホームには人が倒れており、危険を感じたので、急いでその場を離れました。

途中で同僚に会って何か変だから早くここを離れたほうが良いと、霞が関を急いで出ました。

ところが、出た所でめまい・吐き気に襲われ、急に視野が狭くなり、一点しか見えなくなってしまいました。(サリン特有の「ピンポイント」と言われる症状)」

 

そして、友に付き添われて行った先の病院で、サリン中毒事件に巻き込まれた事を知ったそうです。

 

サリン中毒と言われるのは、猛毒の薬物サリンによって、運動神経が麻痺させられてしまうもので、めまい・吐き気などの他に、特有の一点しか見る事が出来なくなる「ピンポイント」と言われる視野狭窄を引き起こす、生命をも脅かす薬物中毒症です。

 

サリンは猛毒であっても割合容易にその中毒性は中和できる毒物です。

しかし、皆様もテレビや新聞報道でご存じのように、予後の悪く、後遺症に悩まされた方が少なからずおられた事は、周知の通りです。

 

さて、事件のあったその週の土曜日に、治療の予約は入っておりましたが、治療前日に「サリン事件に巻き込まれて、治療をキャンセルしたい」との連絡がございました。

5日経ったその時の症状は、右目の視野 3分の1、左目の視野はピンポイントでほぼ

0の状態。

めまいがして気持ち悪く、ふらついてとても1人では歩けない状況でした。

 

しかし、テレビ報道などで、私もサリン中毒について、ある程度把握しておりましたので、治療に来られるのは大変であろう事は承知の上で、一刻も早く治療を開始した方が良い事を説明して、無理に来ていただき治療を開始いたしました。

 

初回の治療で、右目の視野が2分の1に、左目の視野は3分の1に、以後2ヶ月8回の治療で、視野は正常になりました。

 

しかし、ふらつきがなくなるのに約半年、24回程度の治療を要しました。

この時点で、サリン中毒に対する治療は終了いたしました。

 

その後は、健康管理を中心とした治療を2週間に1回の割合で行っておりましたが、2年後の検診で、思わぬ朗報がもたらされました。

 

サリンに侵された患者さんの場合には、目の反射速度(瞳の開いたり閉じたりする速度)は、健康な方と比べると、鈍くなってしまうのが当然の事ですが、鍼治療が功を奏したのか、38歳にして、瞳の周囲の黒目の部分のみが、若干鈍いのみで、何と10代後半の若者と同程度にまで瞳孔の反射速度が、20歳も若返っているとの検査結果が出て、担当医も驚かれていたとの事でした。

 

反回神経麻痺

 

声帯を動かす神経(反回神経)は、脳から分かれて頭蓋内から下降してきます。

一度そのまま声帯の横を素通りし、複雑に走行して、声帯を支配しています。

そして、声帯を制御し、声を出させたり、食べ物が期間に入り込まないように作用しています。

その走行中で腫瘍など様々な原因で麻痺が引き起こされます。

 

反回神経麻痺により、このような声帯の運動性が障害されると、息もれするような声枯れや、誤嚥(ごえん)むせるといった症状が起こります。

 

また、両側の反回神経が障害されると、気道が狭くなるため呼吸困難や喘鳴(ぜんめい)(ゼーゼーした呼吸音)が起こります。

 

 

◆ Mさん 女性 (26歳)

 

ある企業で電話相談の業務担当であったMさんは、原因不明でこの病気に罹患してしまいました。

精神的な原因も考えられた為に、カウンセリングなども受診されましたが、全く改善する様子がなかった為に、カウンセラーから紹介を受けて、治療する事になりました。

 

その時の症状は、反回神経の片側の麻痺により、まるでしゃがれた高齢者のような声になっていました。

 

治療は1週間に1回のペースで致しましたが、およそ3ヶ月経って大きく改善し始めて、半年後24回目の頃には、正常な若々しい声を取り戻すことが出来ました。

 

 

原因不明の半身麻痺

 

◆ Sさん 女子学生 (15歳)

 

突然、半身麻痺が起こり救急病院で診察したけれども、原因不明と診断され、その後半年弱リハビリ療法を受けた後、当院へ来られました。

 

その時点での症状は、右腕は殆ど動かず、手も握ったまま動かす事は出来ませんでした。

右背腰部は筋力が弱かった為に歪んでおり、右下肢は全体に左下肢の3分の1程度しか力がございませんでした。

 

半身麻痺と言う事から恐らく脳にトラブルがあったと推測されます。

右首に、異常に強い緊張が認められ、腕や背部を支配する神経群を強く圧迫して、症状を更に悪化させていると考えられました。

 

さて、初めての治療で、いきなり腕全体が動くようになりましたが、2回目に来院した時には、殆ど前の症状へ逆戻りしておりました。

 

 

その後およそ3ヶ月間一進一退を繰り返して、その後着実に改善し始めて、6ヶ月ほどで、完治いたしました。